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名古屋地方裁判所 昭和56年(ワ)2067号 判決

主文

一  被告成は、原告に対し、金三七四万六三七円およびこれに対する昭和五五年八月一一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告成に対するその余の請求および被告水家に対する請求は、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を原告の、その余を被告成の各負担とする。

四  この判決の第一項は仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金四五〇万四六三七円およびこれに対する昭和五五年八月一一日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(各被告)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  事故の発生

1 日時 昭和五五年八月一一日午前二時ころ

2 場所 名古屋市瑞穂区瑞穂通一丁目二一番地先交差点(以下本件交差点という)

3 態様 被告水家運転にかかる普通貨物自動車(名古屋四四ろ一五六)(以下被告水家車という)が石川町方面から高田町方面にむけて、被告成運転にかかる普通乗用自動車(名古屋五六そ七四三四)(以下被告成車という)が新瑞橋方面から桜山方面にむけて各進行中、本件交差点で出合頭に衝突した結果、原告店舗にそれぞれ飛びこんで停止した。

(二)  責任原因

被告らは、本件交差点を通過するに際して、それぞれ信号を確認し且つ前方を注視して適宜減速して進行すべき注意義務があるのに、互にこれを怠つて進行した過失によつて衝突した。

(三)  損害 原告は本件交差点の北西角で文房具販売を業とする会社であるが、本件事故によつて家屋、商品の破損をうけ、別紙目録記載のとおり四五〇万四六三七円の損害をこうむつた。

(四)  よつて原告は被告らに対し、民法七〇九条、七一九条にもとずき各自四五〇万四六三七円の損害賠償を求める。

二  請求原因に対する答弁

(被告水家)

1 請求原因(一)は認める。

2 請求原因(二)のうち被告水家に過失があるとの点については争う。

本件事故は、本件交差点を北進して来た被告成が対面信号が赤であるにも拘らずこれを無視して進行した過失によつて惹起されたもので、被告水家には過失はない。

3 請求原因(三)は不知

4 請求原因(四)は争う。

(被告成)

1 請求原因(一)の事業のうち被告成が原告方店舗に飛びこんだ事実は争うけれども、その余は認める。

2 請求原因(二)は争う。

被告成は対面信号青に従つて進行したものであつて同被告には過失はない。

3 請求原因(三)は否認する。

4 請求原因(四)は争う。

第三証拠

証拠関係は記録中の証拠目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  事故の発生

被告水家の関係では請求原因(一)は当事者間に争いはない。

被告成との関係では請求原因(一)のうち被告成車が原告方に飛びこんだこと以外はすべて当事者間に争いはなく、成立に争いのない甲第一七号証の一ないし六によれば、被告成車はその右前部を原告方の建物の角の木柱に衝突させて同柱を折れ曲げさせ、且つ右前部を五〇センチメートルシヤツターにつつこんだ形でシヤツターを押しまげて停止していることが認められるので、本件事故によつて被告成車も原告方にとびこんだと認めるのが相当である。

二  責任原因

(一)  成立に争いのない甲第一七号証の一ないし六、第一八号証の一ないし四、乙第一号証および証人堀未知子の証言、被告本人水家明博、同成勝吉の各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、右認定に反する右証人および各被告の供述部分はいずれも信用しないし、他にこの認定を覆すにたる証拠はない。

1  被告水家は本件事故の前夜である昭和五五年八月一〇日午後一〇時すぎころ、友人に頼まれて同人を豊田市まで被告水家車に同乗させて行つたのち、名古屋市千種区谷口にある同人宅まで同人を送りとどけ、午前一時三五分ころ、帰宅するべく被告水家車を運転して、本件事故現場方面へむけて同所を出発した。

被告水家は、終始時速五〇キロメートル位で進行して瑞穂図書館南交差点にさしかかつたが、同交差点の対面信号は赤であつたため一旦減速したが、交差点手前で信号は赤から青にかわつたため、再び加速して時速五〇キロメートル位にもどして進行した。

2  被告水家の進行していた右道路は、東の方から西即ち市道環状線にむかつて一〇〇分の〇・八メートルの下りのゆるい勾配であつたために、瑞穂図書館南交差点の次の交差点即ち本件交差点だけでなく、次の次の交差点(高田町二丁目交差点)の各信号機の色まで見とおせたが、前記瑞穂図書館南交差点を超えた辺りの地点つまり本件交差点の手前一三四・五メートルの地点で被告水家は本件交差点の信号が青であることに気付いたが、前同様の速度を維持して進行し、本件交差点の手前一五メートルの地点で再度青を確認した進行した。

3  被告水家は、本件交差点へ進入する寸前(衝突点の手前二三・一メートルの地点)に左前方に被告成車が交差道路である市道環状線を北進して来るのを認めたが、その地点は同車の停止線の手前一九・五メートル(衝突点の手前三五・四メートル)であつたため、同被告車が停車すると考えてそのまま一四・三メートル進行した時、依然同車は北進して来るのに驚き、右へハンドルを切ると同時に急制動をかけたが間にあわず、被告成車の前部が被告水家車の左横ドアー部分に衝突し、そのはずみで、各被告車は、交差点北西ガードレールの両端をそれぞれ押しまげたうえ、進行し歩道を横ぎつて原告方のシヤツターを押し破つて原告方へつつこむ形で停止した。

4  被告成の進路からすると衝突点の手前二八・五メートル(停止線の手前一二・七メートル)で交差点にさしかかる被告水家車を発見しうる状況にあるのに、被告成は停止線まで進んでようやく交差点内を中央分離帯付近まで進行して来ていた被告水家車を前方一二・五メートルに発見して危険を感じてハンドルを左に切り急制動をかけたが間にあわずに衝突した。

5  被告成の進行して来た南北道路は、幹線道路である名古屋環状線であり、歩車道の区別があり、道路中央にガードレールの中央分離帯がもうけられていて片側三車線で、車道の幅員は二二メートルである。

被告水家の進行して来た東西道路は、歩車道の区別のあるアスフアルト舗装道路で、車道の幅員は七・二メートルで、白線のセンターラインがひかれている。

6  本件事故発生時の本件交差点の信号機は、一三〇秒を一サイクルとし、南北道路は青七五秒、黄三秒、全赤三秒、赤四五秒、全赤四秒の順序と長さで作動し、これに対し東西道路は赤八一秒、青四二秒、黄三秒、赤四秒の順序と長さで作動していた。

7  事故の前日である八月一〇日は、日曜日であつたので、被告水家の仕事は休みであつたが、同被告は、夕食時にも飲酒していないし、又その後も事故時までにコーラを一杯飲んだだけで他に飲食は特にしていない。又同被告の前同日から本件事故までの足どりは、午後九時ごろ、自宅に遊びに来ていた女友達を同女の寮まで送り、その後、既に友人から依頼されていた予定に従つて同人を豊田市に連れて行き、その帰路三〇分ばかり別の友人宅に立寄つたが、八月一一日午前一時三五分ころ、右友人を千種区谷口で下車させ、その後は帰宅するため一人で被告水家車を運転して本件交差点にさしかかつた。

一方、被告成は、女友達の堀にさそわれて八月一〇日午後七時ころ同女宅を訪れ、その後午後八時ころ堀と二人で近くのお好焼屋で食事し、その後堀の友人成田裕子が加わり三人で飲食店二軒、スナツク一軒を食べたり飲んだりして八月一一日午前一時すぎまで渡り歩き、その間の移動は、すべて被告成の運転する被告成車が使用されたが、本件事故発生当時、堀および成田裕子はかなりビールを飲んでおり、交差点にさしかかつた時も被告成らはカセツトテープをつけて談笑したりなどしていた。

(二)  以上に認定した事実を前提に判断すると、被告水家は、本件交差点を東から西にむかつて進行するに際し、交差点の手前一三四・五メートルの地点で本件交差点の対面信号が青であることを確認しているところ、当時の同被告の速度からすれば、一〇秒弱で本件交差点に差しかかる計算になるが、同被告は右交差点に入る約一秒前に再度対面信号が青であることを確認し、更に交差点進入寸前に左前方の南北道路の停止線の手前一九・五メートルの所に北進して来る被告成車を認めながら進行した経過に照すと、被告水家は対面信号が青で本件交差点に進入したものと認めるのが相当である。そうすれば、本件交差点の南北道路と東西道路の信号の表示秒数を照らしあわせると。被告水家が青であつた以上、被告成は対面信号が赤で本件交差点に進入したことになる。即ち被告成は本件交差点に進入するに際し、対面信号が赤を表示し、しかも自己の進路の信号の表示に従つて被告水家が既に交差点内を進行しているのであるから、交差点手前で停止すべき注意義務があるのにこれを怠り慢然と進行した過失によつて、自車の前部を被告水家の左側部分に衝突させたものであつて、被告水家には本件事故について何ら責任が無かつたものと認められる。

被告成は、同被告の対面信号が青で本件交差点に進入した旨主張するけれども、これにそう甲一八号証の一および同号証の四の一部ならびに同被告本人成および証人堀未知子の各供述部分は、乙第一号証の記載内容と明らかに矛盾するので、この点の主張は採用しない。

三  損害

原告代表者本人斎藤キクの本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第一ないし第一六号証、第一九号証および右代表者本人尋問の結果によれば、原告は別表(1)ないし(4)、(6)ないし(15)掲記の各金員および(5)の電気工事代金として六万五九一二円、事故証明写真と工事人夫の茶菓子代として三万四二八〇円をそれぞれ支出したことおよび一五日間十分に商売が出来なかつたことによる損害は、一日の売上げの平均、利益率、従業員数、従業員の時間給等を合せ考えれば、高々四〇万円と認めるのが相当であり右認定を覆すにたる証拠はない。

そうして弁護士費用について検討するに、本件訴訟の内容、経過等諸般の事情を考慮すると三〇万円と認めるのが相当である。

以上のとおりであるから、原告の本件事故にもとづく損害は三七四万六三七円となる。

よつて、被告成は、原告に対し、本件事故による損害賠償として三七四万六三七円を支払うべき義務がある。

四  結び

以上のとおりであるから、原告の被告水家に対する請求は理由がないので棄却し、原告の被告成に対する請求は三七四万六三七円の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余は棄却し、訴訟費用の負担については民訴法九二条、八九条を、仮執行の宣言については同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笹本淳子)

目録

一 物損

(1) 軽量シヤツター取替工事関係 金三九万八、三〇〇円

(2) 鉄柱工事(伊藤建築) 金三七万一、二八〇円

(3) 工賃(伊藤建築) 金六万五、〇〇〇円

(4) 左官・タイル工事(山田業務店) 金一七万三、三〇〇円

(5) 電気工事(永井電気工事) 金六万五、九一二円

(6) タバコウインド 金二八万八、〇〇〇円

(7) フロントウインド工事(建装アルミ) 金一〇三万五、二九〇円

(8) 看板工事(南看板店) 金四万五、〇〇〇円

(9) 備品ケース(加藤憲株式会社) 金二二万六、七二五円

(10) 中日スーパー台(中日製作所) 金五万五、五〇〇円

(11) スチール商品台 金三万八、八〇〇円

(12) 整理・運搬人夫代 金九万九、二五〇円

(13) エアーカーテン 金一〇万六、〇〇〇円

(14) 万年筆ケース上部ガラス 金二万八、〇〇〇円

(15) 看板修理代(プラチナ・カシオ) 金一万円

(16) 営業損失(一五日間) 金六八万四、〇〇〇円

(17) 雑費 金三万四、二八〇円

二 弁護士費用 金三〇万円

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